In: 悩みのるつぼ(朝日新聞)|社長日記
先週の土曜、朝日新聞「悩みのるつぼ」で回答を担当した。
編集部から依頼された質問、今回はコレ。なかなかの難問だ。
*************質問***************
十代の女子高生です。以前から相談したいことがあるので投稿しました。
父のことです。父の休日は食べる、寝る、テレビの繰り返し。無趣味なので他のことは何ひとつやりません。強いて言うなら、買い物に行って無駄金を使うくらい。何もしないくせに食欲は人一倍あるので困ります。
仕事は「忙しい」と言う時期もありますが、自営業で一日中テレビがついているようなところなのでちゃんと仕事しているのか不審です。また、最近は「疲れた」と言っているのにも関わらず、夜遅くまでずってケータイをいじっており、五十歳にしてケータイ依存症で、酒を飲みに起きたりと意味がわかりません。
物心ついたときからこんな父が嫌いでした。母には「お父さんみたいにならないように」と言われ育てられてきました。幼い頃真冬の二月の公園の噴水で私が遊びたいという理由で父が遊ばせ、肺炎になり入院したことがあります。父と遊んだ思い出やしつけをしてもらった記憶はありません。父に育てられたという思いはありませんし、感謝の気持ちはこれっぽっちもありません。
だから、父の老後の面倒は見ないと決めました。野垂れ死ねばいいんです。友達はお父さんと一緒に買い物をしたり映画を見たりしているので、とても羨ましく思います。父を好きに・・なろうとしても、父のいいところなんてひとつもないし、考えるほど悪いところがあがってしまいます。
子供のことに無関心で全てにおいて母に任せっきりで、学校のテストや成績、最近は通知表も父には見せていません。イジメられてる子はいないかなどと聞いて、おもしろがったり、今はロクな先生がいないと言ったりしています。
母は父との結婚は失敗と言っており、私は離婚してほしい限りなのですが、やはり経済的なことを考えると離婚という選択は無理です。
父がいる休日はイライラしてしまい、死んでほしいとか殺したいという気持ちが強くなっていくばかりで、いっそのこと虐待でもされれば訴えられるのにと思うようになりました。楽しいはずの休日はストレスがたまって辛くて泣くようになりました。
私はどうすれば良いのでしょうか。思春期という理由で片付けないでほしいです。
*************質問終わり************
*************回答***************
「お父さんみたいにならないで」
母はいつも言う。不思議です。あなたは女、父にはなれません。なるとすれば母親でしょう。
「お母さんのようになっちゃダメよ」 こう言うべきです。
なぜ母は「私のような母親になるな」と言えないのか?ここがポイントです。
「私のような母親」とはどんな母親でしょう。答は簡単ですね。
自分に無関心・無頓着な夫と結婚し、離婚もできず、思いつく限りの愚痴を幼い頃から言い聞かせ、やがて娘が「父など死ねばいい」と思いこみ休日に泣いて過ごすように仕向ける母。
それが「私のような母」です。
本当に最悪の父なら、なぜ母は離婚しないのか?これも簡単、ちゃんとストレスのはけ口があるからです。自分の言い分を全部信じる娘に毎日悪口を言ってストレス発散してる。だから母は耐えられる。つまりあなたの犠牲の上に、母は暮らしている。
あなたの父親像は、母の愚痴でできている。寒い中、娘にせがまれて公園まで連れて行く父。はしゃいで寒いのも忘れ夢中であなたは噴水で遊んだ。でも風邪を引いたあなたに母は「父が悪い」と吹き込みます。繰り返される呪いの言葉が楽しい思い出を消してしまったのです。
人間は弱い。誰かの愚痴や文句を言わないと生きていけない。
母の不幸は、家に閉じこめられて、視野が狭いことです。趣味が「父のダメ出し→娘に吐き出し」だけ。こんなの誰の得にもなりません。
ではどうするか?あなたがこのマイナス連鎖を切りましょう。
誘ってあげて、お母さんの興味を外に向けさせる。これができれば、情況はかなり改善されるはずです。お母さんと一緒に映画やショッピングや旅行をする。そのために、あなたがバイトをするのもアリ。お母さんにもパートに出ることをどんどん勧めましょう。
パートをすれば、お母さんの世界も広がるし、お金も、できることも増えます。本当に最悪な父なら、あなたと母が一緒に働いたら独立も可能でしょう。
難しすぎますか?じゃああなただけでも逃げてください。たった三人家族で二人が一人の悪口を言い合ってる家は地獄ですよ。高校生ならもう働けます。
逃げなさい。さもなければ、母を助けなさい。
*************回答終わり************
毎回、このコーナーには悩まされる。でも今回の質問、かなり悩んだよ。
なんだか言いたいことや聞きたいことが浮かんでは消えて、言葉になりにくかったからだ。
最初、思ったのは「なんだかキツい文章だけど、妙に心にひっかかるな」という部分。後半の「父を好きに・・・なろうとしても」という部分だった。
彼女自身も「好きになろうとしてる」けど「心の大部分がダメを出す」という状態なんだと思った。
僕たちの心は、「ひとつの統一された自我」ではできていない。自分の心をよ~く観察すると、「いくつもの考え」が混ざっているのがわかる。「いくつもの考え」というのは、複数の価値観がそれぞれ固有の「語り口」で主張している状態だ。
僕たちの脳内には複数のキャラが存在し、彼らが話し合って行動を決めている。
僕はこれを「脳内学級会」と呼んでいる。声の大きい奴もいれば、冷静な奴もいる。気弱だけどガンコな奴もいる。ただし、先生はいない。無力な学級委員長がいるだけ。
そう、この学級委員長こそ「私」なんだ。
で、彼女の脳内には「お父さんだから好きになりたい」という女の子が確実に住んでいる。でも、それよりずっと声の大きくて威張っている「怖い人」がクラスを支配している。それが「母親」じゃないか、というのが僕の感想だ。
ここまで分析したら、あとはどうやって新聞の文字数制限内に落とし込むか、だ。
事情を彼女に伝える、それも納得してもらえるように伝えるには、母親自身の矛盾点、すなわち「お父さんのようにならないで」を切り口にするしかない。
そこから入って、分析までたどり着くのに全体分量の半分までに収めなくちゃいけない。分析だけで終わってしまったら、彼女は母親まで憎むことになる。父が嫌いで母まで憎んじゃったら、彼女の人生に救いが無くなる。
そんなことは絶体にやっちゃダメだ。
では後半の展開は?
今後、どのようにするか。どのように「現状を捉えなおし」「心を建てなおし」「今日からできること、に落とし込む」か?
まず、母を赦さなくちゃいけない。母の絶望とその原因の特定。新しい感情のはけ口の提示。
そのために女子高生の相談者でもできることの例示。ダメだった場合、最悪は「逃げればいい」という落としどころの提示。
彼女自身、これまでいろんな人に相談してきたかも知れない。最後の「思春期という理由で片付けないでほしい」という叫びは、それまで彼女がどんな相談をして、どんな「回答」を得たかがうかがえて痛ましい。
さて、こうして方向性は決まった。
でも分量がオーバーする。何度書き直しても、14文字×66行に収まらない。何十行もオーバーしてしまう。
分析→考え方の提示→具体的助言までをこの分量で、という注文が最初から無理なんだよな。
僕の顔写真とか不要だからカットしちゃえば、あと20行ぐらい使えるのに。いやそれより、他ページのつまんない○○○とか終わっちゃえば、まる一面使えるのに!
などと不毛なことを考えながら、ひたすら文字数を削る。
助詞を、助動詞を、接続語を切る。指示代名詞を切ると、文節そのものまでカットできることに気づく。
どんどんカットすればするほど、相談者への気遣いまで失ってしまいそうになる。なんとかギリギリ、雰囲気だけでも残して、ひたすら切る。
だから僕の回答は、毎回ギチギチで改行もロクにないんだよね。
そうやってようやっと完成したのが、今回の回答だ。
次の相談掲載日は6月12日(土)、締め切りはもう来週じゃないか。
あ~、やりがいはあるんだけど、しんどいな~。
今度はどんな相談が来るんだろう?
というわけで、今日はここまで。
じゃ、また明日ね
貨幣経済→評価経済社会へシフトするための拡張型組織である。 exはエキスパンドすなわち拡張を意味し、「会社」「学校」「家族」の属性を併せ持つ組織なのだ!
11 Responses to 【社長日記】メイキング・オブ「悩みのるつぼ」
ennma
7月 27th, 2010 at 11:33
女子高生に対して、この回答はどうでしょうか?
少なくとも幼少時代から女子高生になるまで成長してきているのです。それをアルバイトしろだとか、逃げなさいとか、非現実な回答しています。
要は、高校を卒業してからの方向性をしっかりと見つめるとこが大切ではないのか?将来を見据えることで、父への不満を抑制することで、殺意というものを軽減し、そして卒業後に自分の道を歩き出せばいいのです。
こんな回答をもらった女子高生は、逆に悩むと思います。朝日新聞もこんな無責任な回答を紙面に掲載したのなら、同罪だな!
少なくとも女子高には通えているのです。まして女子高生に、そんな負荷をかけることを言うのは、どうなのでしょう?離婚は経済的に無理って言ってってことは、一応現在は、父親の収入で暮らせており、高校にも通えているのです。
あなたが目を覚ました方がいいのでは?
モコム
7月 27th, 2010 at 12:49
ennma様へ
>アルバイトしろだとか、逃げなさいとか、非現実な回答
現実的だと思います。
家にとらわれている人間には家からでることが、大事だと思います。
アルバイト自体が逃げ道になる可能性は高いはず。
>高校を卒業してからの方向性をしっかりと見つめるとこが大切
これこそ「思春期という理由で片付け」ることになりませんか?
>一応現在は、父親の収入で暮らせており、高校にも通えている
だから女子高生は悩んでいるのです。
苦しみの原因がそこにあるから。
>目を覚ました方がいい
ではどう答えてあげたらよかったと思いますか?
父への不満を抑制することができないから悩まれていたと思います。
悩んでいる人に悩まなければいいというのは本当に酷だと思うのです。
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岡田斗司夫へ
悩み相談への回答にとても感動しました。
女子高生がうまく悩みを回避できるとよいですね。
オタキングexにとても関心があるのですが、
私はおたくではないので入社しようかずっと考え中です。
とおりすがり
7月 27th, 2010 at 13:18
とてもいい回答だと思います。
この女子高生は母親の劣等感の憂さ晴らしのはけ口にされているのでしょう。
ところで「一応現在は、父親の収入で暮らせており、高校にも通えているのです。」のであれば、まずは父に感謝する必要があるでしょう。
この子にかけているのは、母親の洗脳のせいで、父に感謝するということを忘れさせられていることのように思います。
Kaz
7月 27th, 2010 at 15:15
素晴らしい回答だと思います。
「逃げなさい」が「非現実な回答」と思っている方は、
その裏にあるメッセージが読めていないのでは。
この女子高生が「逃げなさい」と言われて、どう感じるでしょうか。
おそらく、少し考えてみて、「やっぱり無理!」となるのが現実でしょう。
でも、それでいいんです。社会は厳しいものですから。
生きていくのはそれだけで大変なのです。
それを考えたとき、この女子高生が「自分の面倒は見てくれないけれど、
ちゃんと父親は家族を経済的に支えてくれている」と思ってほしい、という
理由で「逃げなさい」という回答を提示したのではないでしょうか。
「逃げなさい」という「非現実的」な回答を示すことによって、
この女子高生が少しでも父を尊敬する方向に考えてくれるのであれば、
これは素晴らしい「回答」である、と言えるでしょう。
katan
7月 27th, 2010 at 18:58
いい回答です。不満を抑制するだけでは経済的に支えてくれてる父への感謝も生まれません。そして回答にまた悩む。これもいいことです。今まで悩んでた方向を変えるのです。具体性も生まれます。土台をしっかりさせて方向性を決めることができる。
つぐみ
7月 27th, 2010 at 20:46
岡田さんの慧眼にははっとさせられました。
素晴らしい回答だと思います。
まさにこの問題の肝は母親です。
そこをどうにかしない限りは誰も幸せにはなれますまい。
まぁ、胸に覚えのある方にとっては不愉快(不都合)な回答なのかもしれませんが。
ちびうさまきこ
7月 27th, 2010 at 23:00
10代らしい悩みですね。
こんなお父さんがいい、っていう理想をもっていて、お父さんにどうにかしてそれに近づいてほしい。ちゃんとしてよ、嫌いになっちゃうよ!それでいいの?
とても可愛いし純粋だと思いました。ほっておいても、彼女、ちゃんと両親を支えていけると思います。そんな気がします。
Moo
7月 27th, 2010 at 23:28
いい回答ですね。
つまり「親なんだから」では何の解決にもならないんですね。
育ててもらっていようが、どう扱われていようが。
それは、ただの思考停止なんですね。
親子であることを考えるのは大事なことですが、
それと同様に親子であることを離れた人間として考えるのも大事なことでしょう。
社会に出れば、仕事場では親など関係ないのですし。
まだそういうことに気づかないのもこの子が悩んでいる原因の一つなのでしょう。
それに対して、非常に的確なサジェスチョンをしていると思いました。
これで、悩むにしても悩む立場をひとつ上げることが出来たでしょう。
感服しました。
ぴっち
7月 29th, 2010 at 17:44
初めて読みました
感動しました…
来年から社会人になる大学生です
昔は私もお父さんが大嫌いでした…
喋りたくもなく早く離れたい気持ちでいっぱいでした
でも今就職活動をして、社会の厳しさ、大変さを知りました
一人暮らしだったら給料全て自分のためですが…
家族を養うために切り詰める父親…
今まだ遊びたい盛りの私には…とても申し訳ない気分でいっぱいになります
大人、両親は子供にお金を渡して当たり前
昔の私はどうしてそんなこと考えてたんでしょうね…
だからこの女の子も自分が本当はどれだけの優しさを与えられているのか、
男の人、特に父親は家や家族の前ではだらっとしてても出先ではどれだけ大変な思いをしているか
そういうのがわかるといいと思います!
本当に的を得た回答だと思います
通じるといいです!
ベル
7月 29th, 2010 at 22:21
あの相談文から「母親が鍵」という答えを導きだせる着眼点に感服しました。
相談者も、少なくとも「父と自分」以外の視点から問題を考えるきっかけになったのではないでしょうか。バイト云々はともかく、すこし違った角度から見ることができるだけで、随分救われることは多いのではないかと思います。
とても興味深かったので、バックナンバーも読んでみますね。
NaNa
7月 30th, 2010 at 13:04
実際、この相談者のような両親の不和に苦しみ、母親の過依存に悩んで30歳前で投身自殺した同級生がいました。両親と口論の末、いつもなら玄関を飛び出して友人宅にプチ家出していたのに、その夜はベランダから飛び出したんです。両親の目の前で。
彼女の妹は親の反対を押し切って同棲、結婚、家庭から離脱し縁を絶ちましたが、彼女はますます家を出られなくなり…お見合いも恋愛も母が「経済的に吊り合わない」「うちの家柄には…」と潰してしまい、職場にまで電話して来て夫の愚痴をだらだらこぼし…。独立しようとアパート探ししていると母親が「私も一緒に住みたい、もうお父さんとは一緒にいたくない」と懇願、「私を見捨てる気か、親不孝者!」と泣き喚く。
…同級生の葬儀はひどく寂しいものでした。彼女の自殺1年後に、母親は肝硬変で病死。頼りきっていた長女に死なれ、お酒に溺れていたようです。
同級生のようにならないためにも、この女子高生は早めに母離れし、自活の道をしっかりと選ぶべきでしょう。どんなに母に罵られようと、包容力のある男性と同棲したっていいから、一度は家を出るべき。その方が父親とも心が通じ合う機会もあるかもしれません。
「逃げなさい」は素晴らしい助言だと思います。踏みとどまっていくら闘っても問題は解決しないのなら、一旦自分を守るべき。